枕を買いに行くと、たいてい「高さ」から説明されます。低め、普通、高め。店員さんもまずそこを聞いてきますし、通販サイトのレビューも高さの話が中心です。けれど、実際に枕が合うかどうかを決めているのは、高さだけではありません。そこだけを見て選んだ結果、首が痛くなった、朝起きると肩が重い、という相談は意外と多く寄せられます。
高さは「高ければ合う」わけではない
結論から言うと、枕の高さは単体の数値ではなく、体格やマットレスの沈み込みとの組み合わせで決まるものです。高さだけを基準に選ぶと、同じ「7cm」の枕でも人によってまったく違う結果になります。
仕組みを順に見ていきます。首のカーブを支えるために必要な高さは、仰向けで寝たときの肩口からあごまでの距離と、マットレスがどれだけ体を沈めるかで変わります。やわらかいマットレスに寝ている人は、肩が沈んだぶん枕は低めでちょうどよくなります。逆に硬いマットレスなら、肩が沈まないため枕はやや高めが合いやすくなります。つまり枕単体の高さの数値は、組み合わせる寝具次第で意味が変わってしまうのです。
たとえば、体重75kgの男性が低反発マットレスで寝ている場合、肩がしっかり沈み込むため、7cmの枕でも首が反りすぎることがあります。同じ人が硬めのすのこベッドに布団を敷いて寝ると、今度は同じ枕では低すぎて、あごが上がった状態になります。寝具を変えたのに枕はそのまま、というケースで違和感が出るのはこのためです。
例外として、横向き寝が中心の人は仰向けの計算がそのまま当てはまりません。横向きでは肩幅のぶん、仰向けより高めの枕が必要になることが多く、仰向け用の高さ表だけを参考にすると低すぎる枕を選びがちです。ここは迷うところですが、普段どちらの姿勢で眠りに入るかを自分で意識してみると、選ぶ基準がはっきりします。
素材は好みより先に確認すべきことがある
低反発、高反発、パイプ、そば殻。素材選びは好みの問題だと思われがちですが、実際には「寝返りのしやすさ」という観点が先に来ます。素材の好みはその次の話です。
理由はこうです。人は一晩に何度も寝返りを打ちます。そのたびに枕の上で頭の位置が変わり、沈み込みの深さが変わります。低反発素材は頭の形に沿って沈み込みますが、沈み込んだ形が戻るまでに時間がかかるため、寝返りのたびに頭が引っかかるような感覚を覚える人がいます。反対にパイプ素材は中材が動きやすく、寝返りに追従しやすい代わりに、沈み込みが浅く安定感を感じにくい人もいます。
たとえば、寝相が変わりやすく一晩に10回以上寝返りを打つタイプの人が低反発の枕を使うと、朝起きたときに「首が固まっている」ような感覚を訴えることがあります。これは枕が悪いのではなく、寝返りの頻度と素材の相性が合っていないだけ、ということが少なくありません。
ただし、いびきや無呼吸が気になる人は話が別です。この場合は寝返りのしやすさよりも、頭が一定の位置に固定されやすい素材のほうが、気道が確保されやすいこともあります。素材選びの基準は、体質や睡眠の悩みによって優先順位が変わる、という点は押さえておきたいところです。
硬さの印象は寝る姿勢で変わる
「硬めが好き」「やわらかめが落ち着く」という好みは、実は寝る姿勢によって感じ方が変わります。同じ枕でも、仰向けと横向きでは硬さの印象がまったく違って感じられます。
これは接地面積の違いによるものです。仰向けで寝ると頭の広い面積が枕に触れるため、圧力が分散されてやわらかく感じます。横向きで寝ると側頭部の狭い範囲に体重が集中するため、同じ枕でも硬く感じやすくなります。店頭で短時間、仰向けで試しただけでは、実際に自分が寝る姿勢での硬さが分かりにくいのはこのためです。
具体的には、店頭で仰向けに数秒横になって「ちょうどいい」と感じて購入したものの、家で横向きに寝る習慣がある人が使うと「思ったより硬い」と感じるケースがよくあります。逆のパターンもあり、横向きで試して選んだ枕を仰向けで使うと「頭が沈みすぎる」と感じることもあります。
例外として、仰向けと横向きを半々くらいで行き来する人は、どちらか一方の姿勢だけで判断すると失敗しやすくなります。この場合は、両方の姿勢でそれぞれ数十秒ずつ試してみて、どちらの姿勢でも極端な違和感がないかを確認するほうが安全です。
サイズは枕本体より寝返りのしやすさで決まる
枕のサイズというと、35×50cmか43×63cmかといった表面積の話だと思われがちですが、実際に重要なのは「寝返りを打ったときに頭が枕からはみ出さないか」という点です。サイズそのものより、寝返りの幅との関係で決まります。
理由は単純で、人は眠っている間に左右に20cmから30cm程度、頭の位置を動かすことがあります。枕の横幅が狭いと、寝返りの途中で頭が枕から外れてしまい、無意識に目が覚めたり、首をひねった状態で寝続けたりすることになります。ベッドの幅が広くても、枕自体が小さければ意味がないのはこのためです。
たとえば、ダブルベッドを二人で使っていて、それぞれが35×50cmの標準サイズの枕を使っている場合、寝返りの多い人は枕の端に頭が乗ってしまい、気づかないうちに相手の枕のほうへ頭が移動していることがあります。これは枕が合っていないというより、サイズが寝返りの幅に対して小さいことが原因です。
ただし、サイズを大きくすればいいというものでもありません。極端に大きな枕は、二つ折りにして高さを調整するといった使い方がしにくくなり、かえって調整の自由度を失うこともあります。普段あまり寝返りを打たない人であれば、標準サイズで十分なことも多く、ここはサイズを大きくする前に、自分の寝返りの幅を一度観察してみる価値があります。
価格と寿命の関係は思ったより単純ではない
高い枕は長持ちする、安い枕はすぐへたる。そう思われがちですが、実際の寿命は価格よりも素材の種類と使用環境に左右されます。価格が品質の目安になる場面もありますが、それがすべてではありません。
そば殻やパイプ素材は中材を交換できる製品が多く、本体価格が手頃でも中材を補充すれば数年単位で使い続けられます。一方、ウレタン系の素材は価格帯に関わらず、使用から2〜3年ほどで弾力が落ちていくことが一般的で、これは高価格帯の製品でも避けられない経年劣化です。つまり「高いから長持ちする」という単純な図式は、素材によっては当てはまりません。
たとえば、3万円前後の高反発ウレタン枕を使っていても、毎日使用していれば2年を過ぎたあたりから沈み込みが戻りにくくなり、買い替えのタイミングを迎えることがあります。一方で、数千円のパイプ枕でも、中材を1年に一度足したり交換したりする手入れをしていれば、本体自体は長く使い続けられることもあります。
例外的に、羽毛やダウン系の枕は定期的に天日干しや陰干しをすることで、ウレタン系より長く弾力を保てる場合があります。ここは素材ごとの手入れ方法まで含めて考える必要があり、価格だけを見て「長持ちするはず」と判断するのは早計です。購入時には、価格よりも素材の種類とお手入れの手間を見比べたほうが、結果的に失敗が少なくなります。

